HOME / 目次

府庫

開かずの間

誰も知らない開かずの間には
諸々のものが無秩序に詰まっていて
知らないうちに増えてゆく

猫が10匹
督促状の束
約束手形は半分燃えてしまった
チョコレートは万引きしたものだ
別れの手紙はインクが薄れて読めない
クリスマスツリーには飾りは一つもなく
カセットテープはすっかり伸び切っている

時間の概念はない
倫理の概念はない

誰も知らないはずなのに
いつの間にか増えてゆく
詰め込んでいるのは誰だ

男の怒鳴り声
女の顔のあざ
生まれなかった子供
それから――

正誤の概念はない
善悪の概念はない

――あの猫はまだ生きているのか

隙間から真っ黒な霧が漏れ出している
気がついているのだが知らない振りをしている
だが、こんな真っ黒な霧では
誰かが気づいてしまうかもしれない

いつ終る
いつ消える
忘れたことまで思い出させるつもりか

また増えている
詰め込んでいるのは誰だ

鍵を探さなくては
開かずの間の鍵
いや、鍵など掛けていない
出口がないだけ――

ああ、もう手遅れだ
真っ黒な霧が私の顔をしている

HOME / 目次