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能書三昧

神宿る天皇の時代

 陰陽師が活躍するきっかけとなった怨霊、その怨霊が都を祟るようになったいきさつを知りたいというのが 第一の理由で、平安以前の奈良時代、さらに遡って飛鳥時代の王朝がテーマの小説を読み漁っている。 飛鳥時代といえば聖徳太子。これもまた、漫画「日出処の天子」で嵌った厩戸皇子の世界を他の人の目から見た話を 読みたかったというのが、第二の理由。

 最初に手にとったのが、梓澤要著「橘三千代」で、これで藤原四家って何?というのは良く分かった。
  橘三千代というのは、持統天皇に仕えた後宮の女官で、藤原不比等の妻となり、後の皇后光明子を産んだ女性。 この本では三千代が主人公だから、女も知恵と努力と愛嬌でもって出世できるというこの時代ならではの女の サクセスストーリーになっている。勿論、出世するといっても天皇や皇后になれるわけではないが、天皇や皇后を 好きに操れるくらいの権力は持てるということ。
  この時代の面白いところは、通い婚で女は自分の家にいるので、老後の伴侶を決めるまでは複数の男が 通ってくるのもOK、というところ。この男と決めたら相手の家に入って家刀自(=主婦)になるわけだが、 30才やそこらでは、「家刀自になるのはまだ早い」んだそうだから、女も自由で大らかといえば大らかだったわけで。 まぁ、同腹でなければ兄妹でも結婚できたってんだから、一夫多妻制のご都合主義という感じ。要は、しっかり いい男を選ばないといい暮らしにはありつけないというのは現代も同じ?
  三千代は既に美努王との間に二子をもうけているが、なんと女の三千代から夫を捨てるのである。 これは藤原不比等の方が連れ添い甲斐があると見極めたからで、女が男を選ぶという、この先の中世武士の世では あり得ないことができた時代だったようだ。
  女の三千代もそうだが、夫の藤原不比等もまた権力を得るための出世街道まっしぐら。二人で政治を行っていた ようなものだ。この頃の政治というのは外交政策をのぞけば、いかに自分の血を引く人間を天皇にするかという 血族争いに他ならない。だから皇族の親兄弟親戚一同で骨肉の争いを演じている。その皇族を争いのドツボに 引き込むのが、皇族を取り巻く豪族たち、という絵図で、担ぎ上げる皇族を間違えると待っているのは 暗殺か謀殺である。豪族の間でも骨肉の争いに変わりは無い。
  この本を読んでいたおかげで、藤原四家と皇族の入り組んだ関係の予備知識が頭に入って、他の小説を読むときに とても助かった。

 そんな流れで、平城京時代の話はないかと探して、三田誠広著女帝3部作を見つけた。
  推古天皇、持統天皇、孝謙・称徳天皇の話で、作者が著した順番ではなく、時間軸どおりに読まないと 私の頭ではこんがらがってしまうので、古い時代から読んだ。

 推古天皇は聖徳太子を摂政として立った天皇で、私にとっては「日出処の天子」で一番のお馴染み。 この漫画は、厩戸皇子と蘇我毛子の悲恋?物語を堪能して、蘇我入鹿の母親は?山背皇子の父親は?などなど、 史実は脇へ置いて楽しむお話だったが、この小説は厩戸の母と推古天皇の女の戦いのお話。この時代皇女は 神懸りの能力を持っており、巫女になった時代で、推古女帝も気がつくと神が降りてきている状態だったりする。 厩戸も常人離れしているが、女帝のほうがもっとすごいという描き方。なんと、蘇我入鹿は馬子と女帝の子供という ことになっている。まぁびっくり。
  で、その入鹿を討って蘇我氏独占時代に終止符を打ったのが中大兄皇子と鎌足。ここから悪魔の 天智・天武系骨肉の争いが始まるわけである。
してみると、怨霊のもとを辿れば、全ての原因は中臣鎌足か?いや、蘇我入鹿から遡って、蘇我馬子が 蘇我の血を引く女が産んだ皇子なら皇族に準ずるというくらいの地盤を作ったのが始まりだったのでは。

 平安京を作った桓武天皇が早良親王の怨霊に怯えていた、それよりもはるか昔から、自分が天皇になり 自分の息子を次の天皇にする為に、自分の兄弟姉妹を謀殺してきたのが天皇家の歴史ということだ。 NHK大河ドラマでこのあたりの時代をやらないのは、単に検証が難しいせいばかりではないのかも。 やんごとなき方の系譜が血塗られた歴史であるなんて、おおっぴらにドラマにできないってか。

 いずれにせよ、早良親王に限らず、時代時代で殺された人達が祟って出たって何の不思議もない ということは良く分かった。

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