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能書三昧

鬼平健在なり

 4年ぶりのTV放映だ。
 お正月頃にスペシャルが放送されると知り、楽しみにしていた。過去、連続ドラマ枠の時も欠かさず見ていた。 テレビで放送された時代劇の中で一番好きだ。たっぷりお金をかけられるNHK大河ドラマならいざ知らず、 民放であれだけ手を抜かない質の高い時代劇は他にない。
  原作が良いということもあろうが、出演者も一流なら、裏方も最高。公式サイトによると、私のような視聴者が 楽しみにしているのと同じように、出演する役者も「鬼平」をやりたいと思っていたらしい。嬉しい話だ。 それなら登場人物一人一人が奥行きのある役を演じて、いいドラマになるに決まっている。私はTVドラマを見てから 原作を読んだクチだが、原作の雰囲気をあれだけ見事に映像化してくれればどんな池波正太郎ファンも文句は言うまい。

 今回細かいことに気がついて感動した。
  五鉄の軍鶏鍋、本物の軍鶏を使っている(主人談)。大根も立派なの使ってるし、役宅や五鉄、 茶屋の調度なんかも、チャチくない。
  捕り物に出向く時の準備万端さ。装束はもとより、押し入った際、切り込むと同時に鴨居に掛ける燭台を 吊るしていくんだけど、賊が火を消すことが分かっていて予め用意されているというのが凄い。 普通ドラマでそこまで細やかな演出しないよね。ありえない格好で出てくることはあっても。
  小道具から町の背景まで、手抜きなく江戸の風物を再現してくれてるから、想像力の乏しい私としては 原作を読む時大いに助けになった。エンディングの四季も美しいしね。

 私には、鬼平は中村吉右衛門以外考えられない。
  長官(おかしらと呼ぶのが正しい)、最高。人間としても男としても最高だよね。女ならその男っぷりに 惚れちゃうし、部下なら人柄、生き様に心酔すると思う。あんな上司だったら勤め甲斐があるってもんだ。
  火付盗賊改方の役人たちはみな、長官の崇拝者といっていい。(因みに、ドラマの中では私は沢田さんがご贔屓。 もう忠勤の鑑。)そのくらい互いの信頼がなかったら、命がいくつあっても足りない、昼も夜もない、体力もいる、 剣の腕も、頭脳も、忍耐も、半端でなく要求されるこんなお役目、誰がやってられるか。その過酷な仕事を、 長官自ら先頭に立って率いてくれるからこそ、みんな長官を守る為、世のため人のため、辛いとも思わず働いているのよね。 まったく、現代の公僕である政治家や役人に爪の垢でも―と言いたくなる。

 鬼平は部下に慕われるだけでなく、敵も味方にしてしまう。追われていた盗賊が転向して手下になるんだから、 その人望の篤さが知れようと言うもの。今回「山吹屋の女」のお篠も長谷川平蔵がどんな男か分かって、 迷わず密偵になる道を選んだし。
  鬼平の密偵たちへの心配りも半端でなく、でも仕事として冷徹な命令も躊躇なく下す。この辺が原作そのままに 映像化されていて見応えがあるんだよね。今回のスペシャルも半分が密偵の世界だから。蛇の道は蛇、 二本差しではどうにもならない部分を受け持つ密偵の働きぶりが鬼平のもう一つの見所。五郎蔵も粂八もおまさも 伊三次も、その分をわきまえているところが美しい。みんな元は盗賊だったのに、いまじゃ長官の為なら 死んでもいいと思っている。一寸の虫にも五分の魂というのを心底分かってくれている人だから、救われるんだなぁ。
  みんなドラマの最初から役柄が必要不可欠となっているから、何年経とうと他の役者には替えられないし、 絶対に替えて欲しくない。江戸家猫八のとっつぁんが居ないのがとても悲しいけれど、他の人に代わりをしてもらいたくない。 (ドラマの中でお通夜をやったくらい大事な人物だったんだものね。)そういう意味では、 主要人物を演じる役者が亡くなったらもう撮れないということだ。

 原作に限りがあるからレギュラー終了となったらしいが、骨組みを壊さなければ脚色OKなら、 一年に一本でいいから、ぜひ撮って欲しい。中村吉右衛門様はじめ出演者の皆様、制作側の皆様、 何卒よろしくお願いします。

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